「試作は儲からないんですよ」
確かにその通りである。
試作品は段取り替えが多い。
図面変更も頻繁に発生する。
数量は少ない。
加工時間も読みにくい。
現場から見れば、量産品のほうがはるかに利益を出しやすい。
そのため、試作案件を嫌がる会社は少なくない。
しかし、私はこれまで数千社の町工場を見てきて、ある共通点に気づいた。
業績を伸ばし続ける会社ほど、試作品を大切にしているのである。
なぜか。
それは試作品の利益ではなく、その先にある量産利益を見ているからだ。
例えば、試作で十万円しか利益が出ない案件があったとする。
経営者によっては、
「手間ばかりかかって割に合わない」
と考える。
しかし別の経営者は違う。
「この製品が量産化されたら年間五千万円の仕事になるかもしれない」
と考える。
見ている景色が違うのである。
試作品とは、顧客の未来への入場券だ。
試作を依頼されたということは、顧客が新製品を立ち上げようとしている証拠である。
そして新製品が成功すれば、多くの場合は量産へ進む。
量産になれば、
継続受注が発生する。
専用設備の導入も進む。
年間契約につながることもある。
場合によっては十年以上続く仕事になる。
つまり試作は利益商品ではない。
未来の利益を獲得するための投資商品なのである。
実際、自動車業界や医療機器業界、産業機械業界で成長している工場の多くは、試作への対応力が非常に高い。
納期が短くても対応する。
変更にも柔軟に応じる。
夜遅くまで調整することもある。
なぜ、そこまでするのか。
試作品が本番ではないと理解しているからだ。
本当の勝負は量産開始後なのである。
もちろん、何でもかんでも受ければ良いわけではない。
試作案件にも見極めが必要だ。
大切なのは、次の三つである。
一つ目は、市場性がある製品か。
二つ目は、量産化の可能性が高いか。
三つ目は、自社の強みを活かせる案件か。
この三つを満たしているなら、多少利益が少なくても取り組む価値はある。
むしろ積極的に入り込むべきだ。
そして試作段階では、加工だけをしていてはもったいない。
設計改善を提案する。
品質向上策を提案する。
工程改善を提案する。
顧客が困っていることを一緒に解決する。
そうすることで、顧客の中での存在感が高まる。
やがて顧客はこう考えるようになる。
「この製品はあの会社と一緒に作った」
ここまで来ると強い。
量産先を決める会議になっても、
最初に名前が挙がるのはあなたの会社になる。
そして競合は価格だけで入り込めなくなる。
試作品とは、単なる小ロット加工ではない。
顧客との信頼関係を作る場であり、量産受注への入り口である。
利益だけを見れば魅力は小さい。
しかし将来を見れば、その価値は計り知れない。
目先の十万円を追いかける会社と、十年続く取引を取りに行く会社。
成長する町工場は、常に後者なのである。
次回予告
第48回 「試作案件で絶対にやってはいけない5つの失敗」
試作案件は顧客との関係を深める大きなチャンスである一方、一度の失敗で信頼を失う危険もある。
実は量産を逃す会社には共通する失敗パターンが存在する。
次回は、試作から量産につなげる会社と、試作で終わってしまう会社の決定的な違いについて解説する。
